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橋本恵美歌集『のらねこ地図』

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橋本恵美歌集『のらねこ地図(マップ)』(青磁社)を読んだ。

読んでいて、やさしく温かい気持ちになってくる歌集だった。

まず、お子さんの成長を見守る歌に、いい歌が多いと思った。

アイロン台のお寿司屋ごっこ 食細き子に食べさせるネギトロ一丁
頭の中ののらねこ地図(マップ)おとうとに託して兄は巣立ちてゆけり
三人の切符買うとき気づきけり子だけが片道切符であると
ひとりずつ目覚まし時計をもつ暮らし一つの針音きょう遠くなる


三首目と四首目は、お子さんが進学のために一人暮らしを始める前後の歌。

三首目は、下宿先へと旅立つお子さんを、電車で送って行く場面だろう。「片道切符」という一語が、あらためて気づいたさみしさを、ぐっと凝縮しているように思う。

四首目もとてもいい。一緒に住んでいても、起きる時間はバラバラなので、それぞれが目覚まし時計を持っている。これは家族の間で普通にあることだろう。お子さんが自分の目覚まし時計を持って巣立ってしまうのだけれど、そのさみしさを、目覚まし時計の針音が遠くなると表現したところがいい。今まで、少しずつずれてはいたけれど、重なり合っていた時間の一つが、遠くへ行ってしまうというのである。

金木犀の空気満たせば自転車は花の車輪となりて走れり


歌集の中で一番好きな歌。金木犀の咲いているそばで、自転車のタイヤに空気を入れて、タイヤは金木犀の香りの空気で、ぱんぱんになったのだろう。そのタイヤを「花の車輪」と表現したことで、金木犀の花が、自転車の車輪として回っているような不思議な映像が頭の中に浮かんでくる。嗅覚と視覚の両方をくすぐってくれる、とても魅力的な一首だ。

豆腐屋の主人(あるじ)のくれしつり銭の冷えているなり冬至の朝
名無し橋は六歩で渡れる橋なれど主婦を支える頼れる近道
二丁目の川辺マンションのンのところ七夕のころ二羽が入居す
詠草歌すべて出揃い明日の朝野に放つ馬のごとくありけり
絵のまえで親しくなれる三人がレースの帽子について語れり


橋本さんは、「あとがき」に、「毎日楽しいことばかりとは限りませんが、家の中でお母さんが機嫌よく前向きに過ごすことは、家族を照らすことだと感じています。」と書かれている。

私も前向きに生きていかなければと、歌集『のらねこ地図(マップ)』を読んで思ったのだった。



写真は、横浜の野毛にある「BASIL」というイタリアンバルのアンチョビポテトサラダとニシンのマリネ。たまにはこんなオシャレなお店にも行きます。

高木佳子歌集『青雨記』

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高木佳子さんの第二歌集『青雨記』(いりの舎)を読む。
いい歌が本当にたくさんあり、書きたいこともたくさんある。

何から書いていいか分からないほどなのだが、『青雨記』の歌を、ひとことで言うとすると、とても「かっこいい」歌だ。

いろんな歌に、何度もゾクゾクさせられながら読んだ。

最近は、どちらかというと、あまりかっこつけない歌が流行っていたように思うのだが、『青雨記』の歌には、前衛短歌の頃の歌のようなかっこよさがある。

短歌の流れが、少し変わって来るかもしれないと思った一冊だ。

静脈の青を思はす空のもとプール開きの旗(フラッグ)は立つ
Rien(何もなし)とぞ日記に記しし王のこと思ひぬ繊き雨の朝に


一首目、プール開きの旗というのは、いかにも日本的な夏の風物詩なのだが、旗を「旗(フラッグ)」とルビ付きで表記することで、一気に無国籍な感じの風景が立ち上がってくる。

二首目、「Rien(何もなし)」はフランス語。「王」はたぶん中世の王様だろう。平凡な雨の朝から、中世の王の日記まで、かろやかに跳んでゆく。

日常から発想しつつも、日常に埋没しない。そんな歌への向き合い方が、とてもかっこいいのである。

文語をベースとした文体も、歌のかっこよさの源になっていると思う。

「poule au pot(鶏のポトフ)」という連作もとても好きな一連だった。ポトフを作るという料理の歌なのだが、料理をこんなに詩的に詠えるものかと度肝を抜かれつつ、なんだか泣けてくる一連でもあった。ここでは引用しないので、皆さんぜひ歌集を手に取って読んでください。

他にも、例えば次のような歌がいいと思った。

海を見にゆかないのですか、ゆふぐれを搬び了へたる貨車がさう言ふ
芒いま手のかたちしていつせいに指し示すなり風のゆくへを
ゆくらかに点灯夫来て空の鳥海の魚を灯すゆふぐれ
ママいいよぼくこのままでいいと吾子は言ふなり本当にいいか
をのこごは散髪反対と叫んでゐた原発反対に飽いたのだつた
魚(うろくづ)よ、まばたかざりしその眼もて吾らが立ちて歩むまでを 見よ




写真は先日食べたアイスクリーム。私はお酒が好きで、普段はあまり外でこういうものを食べることがないのだが、時間調整のために入った新宿喫茶店で、ふと頼んでしまったもの。たぶん十年ぶりくらい。記念の一枚。

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