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渡辺泰徳歌集『浮遊生物』

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渡辺泰徳さんの第一歌集『浮遊生物』(青磁社)を読む。

渡辺さんは「かりん」所属。大学で長く生態学を研究してこられた研究者の方である。

学生時代から現在までの出来事が、回想を交えながら描かれている。

実験の長引くわれら学生夫婦 白衣でかき込みし朝日屋の出前
実家からザック一杯缶詰を運んで暮らしたポスドクの日々
熱出した子をひきとりに保育園 職なきわれは融通が利く
おしどりでご研究とは素敵など言われて返事はいつも「ええまあ」


回想の歌から。学生時代に結婚し、共に研究生活を歩んで来たご夫婦の記録が、ときにユーモアを交えながら描かれている。4首目の「いつも「ええまあ」」は軽快なリズムの奥に、綺麗事ではないですよという否定の思いと、かすかな含羞とが入り交じった、いい結句だと思う。

他にも、渡辺さんの歌には、結句が面白い歌が多い。

三十年飼い続けいるみじんこは今朝も元気でホップホップシンク
笑いつつ女子学生が教えたるわれの寝癖はきっとつんぴん


「ホップホップシンク」の歌は、研究対象のミジンコを詠んだ歌だが、「跳んで、跳んで、沈む」ミジンコの動きが目に見えるようだ。この歌を読んで以来、しばらく「ホップホップシンク」という言葉が頭から離れない。
寝癖を形容した「きっとつんぴん」もリズムが面白く、とても好きな結句だ。

こんな結句が面白い歌を読むと、とても得をしたような気持ちになる。三十一音の最後の一音まで、余さず味わえるということだろうか。

他には、次のような歌がいいと思った。ここで引用はしていないが、奥さんのことを詠った連作「未完なる」は、通勤電車の中で読んで、涙ぐんでしまった。

バス亭に銃取り落とす少年兵みな凍りつくテルアビブ郊外
資源とは奪い合うものみずうみは水資源なり機銃座おかれて
キャンパスの池に川鵜が飛びきたり小鮒もわれも黒く固まる
あられちゃんのような眼鏡の笑顔した君は楽しき恋をしたのか
若き日に吾の目指ししものはなに鰻重掘る手がふと宙に浮く


最近、仕事でバテ気味だったが、歌集『浮遊生物』を読んで元気が出た。頑張っていこう。ホップホップシンク。



写真は汐入駅前の「あうとろう亭」のブリの刺身。照りがすごい。

今野寿美歌集『雪占』(その2)

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引き続き、今野寿美歌集『雪占』を読む。

息の下に「あなたとあなた」それさへも「あなた」ひとりのことにありけめ


河野裕子さんへの挽歌だ。挽歌でありながら、河野さんの一首「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」をどう解釈するかという解釈論も歌の中で展開されている。

河野さんの歌の「あなたとあなた」をどう読むか。「夫と子」であるとする説と、「夫ひとり」であるとする説がある。今野寿美さんの歌は、〈あなたひとりのことだったのでしょう〉と詠っており、「夫ひとり」説に立つ。

私は「夫と子」であると疑わずにいたので、最初に「夫ひとり」説を知ったときにはびっくりしてしまった。「りとむ」の歌会の後に何人かで話したら、「りとむ」では「夫ひとり」説をとる方が多かった。

「夫ひとり」説の場合は、「あなたとあなたに」を言い換えをして強調している表現と読むのだろう。

「夫と子」説に立てば、家族愛の歌ということになるし、「夫ひとり」説に立てば、夫婦愛の歌ということになる。河野さんのどのような側面を重視するかで、読みが変わってくる歌なのかもしれない。

なお、この河野さんの一首については、「りとむ」ホームページコラム「天文工房より〈2〉」で、和嶋勝利さんが詳しく論じている。

歌集『雪占』には、いろいろと語り合いたくなるような歌がたくさんある。他にも、こんな歌がいいと思った。

二百年くらゐは生きる亀にしてうんざりうんざり浮き沈みせり
薄ら氷の縁(へり)にくちばし差し入れるああこんな一所懸命もある
水仙は立つて年越すならひにて暮らしの外に香をただよはす
よき酒をたいせつに呑む心にはとほき若さや白梅つぼむ
鯖のあをを厭ひたりしがおとなしく食めりこの春ひとりの男
聖書なら持つてゐる開くこともある文語訳であることがたいせつ
校正刷り(ゲラ)の一字に「よろしきにや?」と注ありし「解釈と鑑賞」編集部




写真は、2月の「茂吉を体感する旅」で訪れた雪の最上川。


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