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今野寿美歌集『雪占』(その1)

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今野寿美歌集『雪占』(本阿弥書店)を読んだ。

著者の第九歌集にあたる。

知性に満ちた品格のある作風がますます自在になってきたと感じる。

去年一年間、「歌壇」に連載した作品をまとめた一冊で、連載中に東日本大震災がおこり、震災を詠んだ歌が多く収められることになった。

をさなごがきちんと静止するすがた放射線量測らるるため
ただ笑ふだけではなくて春の山 のたり(丶丶丶)だけではなく春の海


震災詠から二首。
一首目は、小さな子どもが放射線量の測定のため、じっとしている姿を切り取ったもの。元気に跳び回っているはずの子どもが「静止」している姿が、事態の異常さを物語っている。同時に、弱き者へのやさしい眼差しを感じる歌だ。
二首目は、上の句が「山笑ふ」という春の季語を、下の句が「春の海ひねもすのたりのたりかな」という蕪村の句を踏まえて作られている。震災の後、春の山はときおり泣いていたのかもしれないし、春の海という言葉の持つ意味も、大きく変わってしまったのかもしれない。そんなことを考えさせられる。

それなのにねえと唄ひし美(み)ち奴(やつこ)知らねど 茂吉愛されてゐる
DNAはまさしく啄木その額(ひたひ)曽孫の少女の元担任より


近代歌人が登場する歌を二首。
一首目は、茂吉の『寒雲』所収の有名な歌「鼠の巣片づけながらいふこゑは「ああそれなのにそれなのにねえ」」を踏まえた歌。茂吉は当時の流行歌を詠み込んだ訳だが、今となっては流行歌のほうは忘れられ、茂吉の歌は読み継がれているのだから、面白いものだ。
二首目は、啄木の曽孫の少女の元担任教師の方から聞いた話ということだろうか。「額」に着目したところがよく、読者にも啄木の顔がすっと立ち上がる。

(つづく)



写真は、2月に「りとむ」の仲間たちとの「茂吉を体感する旅」で訪れた、山形県大石田町の「聴禽書屋」(茂吉が疎開していた建物)にあった火鉢。茂吉が使っていた物とのことだが、茂吉は空気が動くのが嫌で、あまり火鉢を使わなかったと学芸員さんから聞いた。「茂吉を体感する旅」は、われらがアニキの和嶋勝利さんの企画。いろいろとありがとうございました。

喜多昭夫歌集『早熟みかん』

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喜多昭夫歌集『早熟みかん』を読む。

前歌集までとかなり詠風が変わっているように思う。

作者に何か思うところがあるのだろうかと、「あとがき」を探してみたが、この歌集には「あとがき」がなく、作品以外のところから、作者の意図を伺うことはできない。なんだか読者が試されているように感じる。

芸能人や著名歌人の名前が詠み込まれた歌がかなりあり、一冊の特徴になっている。

例えば、 次のような歌。

穂村弘サイン会の最後尾 ウナギイヌがゐるつて本当?
バカボンのパパよりもなほうつくしく岡井隆は抒情してゐる


これらの作品をどう読んだらいいのか悩む。歌人の名前が詠み込まれているが、挨拶歌という訳でもなさそうだ。『天才バカボン』のキャラクターを通じて、歌壇のビッグネームを相対化しようとしているのだろうか。作品の奥に、現代人のひりひりとした自意識のようなものを感じ取ればいいのだろうか。

ライトな文体ですっと読み通せる一冊だが、一首一首をどう読むか。なかなか難しい歌集だと思う。

私が好きだったのは次のような歌。こんなふっと肩の力が抜けて行くような歌がいいと思った。

町なかに人影あらずうすうすともののかたちに雪つもる見ゆ
滑るやうに車線変更してしまふコンサバティブな春の夕暮れ
臨時職員(りんしょく)のつとめ尊し五百枚コピーとるにも心技体要る
にんげんに生まれたことが悔やまれてならない  ひのきぶろになりたい




写真は先日作ったタコさんウインナー。大ダコと子ダコがいる。造形に関してはまだまだ修行中。

三枝昂之編『今さら聞けない短歌のツボ100』(角川短歌ライブラリー)

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三枝昂之編『今さら聞けない短歌のツボ100』が出ました。

2月に創刊された新シリーズ「角川短歌ライブラリー」の第一弾として、小池光著『うたの人物記 短歌に詠まれた人びと』と同時に刊行された一冊。

「短歌と和歌はどう違う?」
「腰折れ、どういう意味?」
「作って投稿して、短歌は一人で楽しむだけではダメ?」
「一首単独ではわからなくても、連作の中ではわかる。こういう歌はOK?」

など、100項目がそれぞれ見開き2ページで解説されています。

どこから読み始めてもよく、読み物としてもとても面白い一冊です。

私も一部の項目を執筆しています。

ぜひお近くの書店で手に取ってください。Amazonでも購入できるようです。



写真は、正月に帰省したときに、母が打ってくれた蕎麦。


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