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山本かね子歌集『ひぐらしの森』

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山本かね子さんの第十二歌集『ひぐらしの森』(本阿弥書店)を読む。

まず立ち止まるのはこんな歌。

戦争担当世代さなりと頷きてこみあぐるものあり怺へてゐたり
戦の後に生まれたかりき戦争など知りませんと言つて笑ひたかりき
書く文字がよく見えません助けてと歌稿届きぬ手に包みたり
労られほつこり温(ぬく)き心処(こころど)や老いたるよとて笑顔を返す


戦争を経験した世代ならではの思いや、自身や周囲の人たちの老いを見つめる作品が心に迫る。

花殊に美しき今年流されし人を探すと出てゆく舟は
シートベルトと言ひ違(たが)ふ老を笑ひますか始めて聞きし魔性の言葉


震災や原発事故を詠んだこんな作品にも、深い思いを感じる。

いいなあ春はひかり満ち花咲き溢れひねもす遊ぶいのちと遊ぶ


この歌が歌集の中で一番好きな歌だった。老いの歌が多い歌集だが、一冊の本当のテーマは「いのち」なのではないかと思う。

父清浩と師の壽樹の名一文字(ひともじ)をペンネームとし歌に励みき


こちらは「りとむ」から「沃野」へ移り、「沃野」の代表になった三枝浩樹さんを詠んだ歌。浩樹さんは少年時代に、父の清浩さんの所属する「沃野」で活躍されていた。「壽樹」というのは、「沃野」を創刊した植松壽樹のこと。「浩樹」がペンネームだというのは知っていたが、父上と植松壽樹から一文字ずつとったものだとは初めて知った。

山本かね子さんとはお会いしたことはないのだが、三枝兄弟がともに「沃野」で歌を始めたということもあり、山本かね子さんには親戚の方のような親しみを感じている。



写真は、あるお店の茶きん寿司。

札幌・西林【歌人の行きつけ その5】 [歌人の行きつけ]

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昨年末、札幌に帰省した際に、久しぶりにコーヒープラザ西林に立ち寄った。

(札幌は大学時代の四年間住んでいた私にとっては第二の故郷の街。ついつい帰省という言葉を使ってしまう。)

西林は「にしりん」と読む。

中城ふみ子が札幌医大病院に入院中に、よく訪れた喫茶店として有名。

山名康郎さんの『中城ふみ子の歌』(短歌新聞社)に、次の文章がある。

ふみ子は体調の良いとき、よく病院を抜け出して絵を観に行った。いつも電話で山名が呼び出されてお供をさせられた。山名の勤め先の北海道新聞社が二、三分のところにあった。画廊へ行く前に茶房の「西林」でコーヒーを飲みながら歌のことなど語り合った。少女のように明るい笑顔だったが、ときどき軽い咳をしていた。会うたびに窶れが目立った。


当時の西林には、金魚が泳いでいる水槽があり、ある日、ふみ子がレジの伝票に書いて山名さんに見せたのが次の一首だったという。

わが内の脆き部分を揺り出でて鰭ながく泳ぐ赤き金魚は


現在の西林は、地下鉄の大通駅とすすきの駅の間の地下街ポールタウンから、「4プラ」というファッションビルの地下に入ってすぐのところにある。

店内には、1948年(昭和23年)に改装したときの、お店の外観写真が飾ってあり、当時は路面店だったことが分かる。

写真は、西林で食べた「カツライス」。昭和24年からの味だという。見た目はカツカレーだが、ソースはカレーではなく、オリジナルの甘めのさっぱりとしたソース。とてもおいしかった。

店内もゆったりとしていて、リラックスできる。

札幌訪問の際は、ぜひ西林へ。



大辻隆弘歌集『汀暮抄』

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大辻隆弘さんの第七歌集『汀暮抄』を読んだ。

これは本当にすごい歌集。読みながら何度も唸った。大辻さんの歌は既に完成に近づいてきているのではないかと思う。

やはらかく体の軸が傾ぎたり幼きは足に胡桃を踏んで
しづかなる橡(くぬぎ)の森に入りしかば湿れる苔を踏む靴の音
夏の河の水のひかりは橋上をよぎれるときに網棚に射す


一首目は、子どもが胡桃を踏んだために、わずかに体の軸が傾いた瞬間を詠んでいるのだが、そんなわずかな傾きを掬いとり、一首に仕立て上げる技量に痺れる。二首目の「苔を踏む靴の音」や、三首目の電車の網棚に反射している河の光もそうだが、かすかなものを感じ取り、美しく詠い上げる作品が、歌集の中で際立っているように思う。

秋天とともに下流にゆく川の果てに小さな三角州あり
藁を焚く火のかたはらに静かなる馬立ち昏れて影となりゆく
八月の旅ははるけく窓枠にしづくしてゆく冷凍蜜柑


一首目の俳句的な風景の広がり、二首目の日本画のような陰影、三首目の昭和の映画のようなワンシーン。世界というものはこんなに美しいものだったのかと、一首一首の言葉を通じて、あらためて気付かされる。

一人でも多くの方に読んでいただきたい一冊。

最近とてもいい歌集に続けて出会うことができてとても嬉しい。

(どうしても表示できなかったのですが、大辻さんの「辻」は「ヽ」が一つの辻です。)

*

写真は先日作ったハンバーグ。

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