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なみの亜子歌集『バード・バード』


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なみの亜子さんの第三歌集『バード・バード』(砂子屋書房)を読む。

吉野の山中での日々の暮らしを、独特の声調で詠い上げた一冊。

川沿いに鹿の足跡小(ち)さきもあり小(ち)さきはあちこち寄り道多し
野の山葵三ッ葉の浸しに飽きる頃にょんと伸びくるすかんぽがある


一首目の、あちこちと寄り道してしまう子鹿を詠った歌は、子鹿のかわいらしさを感じるとともに、山中の豊かな自然が頭に浮かんでくる。二首目に詠まれているような様々な植物が、子鹿の回りにも、〈にょんと〉芽生えてくるのだろうから、子鹿でなくとも寄り道をしたくなってしまうだろう。

豊作という柿農家あり。いや良うないという農家あり。山ごとに異なる
糠みそよう混ぜといて、と電話していつもの面子と夜の更けまで
しとしとのぴっちゃんな女が雨漏りの下に書きゆく葉書のひとつ


どの歌も、定型ぴしゃりの歌ではない。なのになぜかリズムがとてもいい。一冊を読み終えるころには、なみのさんの歌のリズムに、すっかりはまってしまっている自分に気づく。一首目の〈山ごとに異なる〉という把握の仕方は、細かいのか、大雑把なのか。都会の感覚ではなかなか理解できないような括り方が面白い。(私は群馬の山村の出身なので、分かります、と言いたいような気もする。)二首目は、家族に糠みそを混ぜておいてねと頼んで、仲間と夜更けまで飲んでいるという歌だろうか。まるで子鹿のような、〈にょんと伸びくるすかんぽ〉のような、と言ったら大袈裟だろうか、命のおもむくままの生き方と言えるかもしれない。三首目のような、ユーモアのあるしおらしさを演出する歌にも、とても心惹かれる。

私のなにが人を遠ざけしかありありとわかってしまう山の日暮れに
さびしさのきわまりてゆく夜の更けは犬の寝息にいきを合わせむ


もちろん、山中での暮らしは、楽しいことばかりではないだろう。時折やってくる孤独感に向き合うような歌も収められている。この歌集の歌には、「塔」の歌人の名前がたくさん詠み込まれているが、そんなところにも、人恋しさのようなものを感じてしまったりする。

他には、こんな歌にも惹かれた。

やっぱ鳶は山が似合う、とわが言へば、鳶はどこでもえらそうや、ときた
夏台風やる気なさげに到来すおおまかに雨をぶちまけながら
合羽着て風雨の山を渡るときごめんなさいとおもう決まって
なんだってこんなに死んだり生きたり山林に踏みつけてゆく腐葉土の嵩


定型から溢れ出てきそうな言葉たちは、生まれ変わり生き変わる吉野の自然と、作者自身にみなぎるエネルギーを象徴しているように感じた。



写真は、横須賀のベースの近くにあるアメリカンレストランのホットドッグのチリビーンズがけ。
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