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雪舟えま歌集『たんぽるぽる』

5月26日(木)のこと。鎌倉で友人と飲んで帰って来ると、ポストに『たんぽるぽる』が届いていたので、さっそく読み始めた。

読み進めるうちに涙があふれてきて、気付いたら、深夜のリビングで一人で号泣してしまっていた。なんて悲しい一冊なんだろう、というのが『たんぽるぽる』の最初の印象である。

みにおぼえないほどの希望に燃えて目覚めてもあと二万回の朝?

ふと「死ね」と聞こえたようで聞きかえすおやすみなさいの電話の中に

死だと思うアスタリクがどの電話にもついていて触れない夜

夫のことわたしが消えてしまってもほめつづけてね赤いラジオ


死を強く意識した歌だと思う。どんなに希望に燃えて朝を迎えても、夜の電話で満ち足りた会話をしていても、いずれ死はやってくる。それは、誰でも知っていることなのだが、ふだんは言わない約束なのだ。


詩とはなにか。それは、現実の社会で口に出せば全世界を凍らせるかもしれないほんとのことを、かくという行為で口に出すことである。


吉本隆明『詩とはなにか』のこの言葉を思い出す。僕は、雪舟えま歌集が、あんまり「ほんとのこと」を言い過ぎるので、思わず悲しくなってしまったのだ。

人間は、いつか死ぬのである。何をやったって、どうせみんな死んでしまうのだ。これは、あまりにも悲しいことだ。

でも、だからこそ、雪舟えまは、言葉によって世界の一瞬一瞬を祝福することに決めたのだと思う。


おまえよく生きてるなあと父がいうあたしが鼠にいったことばを

その国でわたしは炎と呼ばれてて通貨単位も炎だったのよ

誕生会行って誕生日のひとにさわってきたと まるで風だね

事務員の愛のすべてが零れだすゼムクリップを拾おうとして

明け方にパンと小さくつぶやけばパンが食べたいのかときかれる


例えばこんな歌。読んでいると、ふだん身にまとっている常識を一枚一枚剥がされていくような気がする。常識を剥ぎ取られてしまって、なんだか寒くてさみしいのだけれど、どこかから「世界って捨てたもんじゃないぜ」という声が聞こえてくるようなのだ。


もう歌は出尽くし僕ら透きとおり宇宙の風に湯ざめしていく


僕の大好きな歌だ。学生時代に北海道新聞の松川洋子選歌欄でこの歌を読んで以来、心の中で何度つぶやいたことだろう。

今回、『たんぽるぽる』を読んで、今の雪舟えまが、あの頃の延長線上にいるのだということが分かって、安心したような気がする。すっかり別人みたいになっていたらどうしようと、歌集を読む前は正直、少し怖かったのです。

僕は『たんぽるぽる』を予約購入したので、予約特典の「再会ライブ」の招待チケットが歌集のオマケとして挟み込まれていた。


再会ライブ 地球の思い出、地球の物語
とき 20002年10月7日 未明
ところ フェザー・スター
    にんに草原特設ステージ


ああ、18,000年後の再会ライブ。みんな魂になって、地球の思い出を語り合うんですね。

ここでまた、僕は涙が止まらなくなってしまった。


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コメント 1

吉乃

世を忍ぶ仮の姿を持たない直球勝負な作家

不思議だけど深い、いろんな意味がこもっている、
そんな感じがしました。
新作の「バージンパンケーキ国分寺」もいいですね。

ネットでいろんな感想を読んでいても、作品の良さが
伝わってきますし、
http://www.birthday-energy.co.jp/
ってサイトでは、雪舟えまさんの性格にまで言及してますね。
つくづく、面白い作家さんです。

by 吉乃 (2013-06-14 23:47) 

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